7月半ばよりBAR Zolddichに新たに仲間入り致しました亀井と申します。
この度は僕の新たに作成した新メニューをご紹介致します!とは言ってもバーとはいえカクテルを作成した訳ではございません…まだまだそちらは日々鍛錬中でございます。
私事ではありますが、前職でリゾートホテルのパティシエとして働いていた経験があり、先日バーゾルディックの営業終了後に店長と飲みに行った際、「数年前にアブサンを使用したスイーツの構想を、当時働いていたスタッフと練ってはいたが完成には至っていない」との事で、この度、私がその役目を引き継がせて頂きました。
という事で、今回作成した新メニューは、立川のバーの中でも当店が品揃えに力を入れている『アブサン』を使用したチョコレートでございます。
アブサンとのペアリングにふさわしい食材を選定
禁断の酒ともかつては言われていたアブサンですが、ペアリングにふさわしい食材とは一体何か。かなり癖の強いお酒ですが、それを邪魔せず且つ、アブサンに負けることなく楽しめうようにするには、癖の強い食材を使用して対抗しなければなりません。今回使用した食材は下記です。
- ビターチョコレート
- ゴルゴンゾーラチーズ
- トリュフオイル
- オレンジコンフィチュール
- アブサン(キュブラー・ヌシャテル)
今回、スイスのアブサン『キュブラー・ヌシャテル』を使用した理由は、当店の豊富な種類のアブサンの中で、より素材の味を活かすことの出来る風味となっている為です。製造過程で添加物を使用しない、オーガニック仕様なのも素敵ですね。それでは早速作り方をご説明していきます!
アブサン・ショコラの作成工程
①チョコレートを湯煎で溶かす
最初にチョコレートを湯煎で溶かしていきます。この時絶対に水を1滴でも入れてはいけません。もし少しでも入ってしまうと、『ブルーム』という白い模様が出来てしまったり、最悪、分離をしてしまったらもうチョコは元のように固まりません。カカオバターと水。水と油の関係を考えたら納得ですね。
ブルームは水分の混入や温度変化で起こりうる現象で、そのままでも全然食べる事は出来るのですが、風味が落ちボソボソとしてしまいます。また、温度変化のブルームの場合は、溶かして「テンパリング」という作業で復活させる事が出来るのですが、水分が入るとそれが途端に難しくなり、大きい企業のキッチンなら、数キロあるチョコを全て廃棄せざるを得なくなる場合もございます(僕は昔それをやってしまい、1周回って笑えるくらい怒られました)。
②チョコレートのテンパリング
『テンパリング』とはチョコレートに含まれるカカオバターを分解し、安定した細かい粒子に結晶させて融点を同じにするための『温度調整』のことです。テンパリングを行うと、艶やかで柔らかい口当たりの綺麗なチョコレートに仕上がります。
まず、チョコを溶かしたら冷水で28℃まで冷やします。そして、一瞬づつお湯にボウルを付けて32℃まで加熱したら完成です。もし温度を下げすぎたり上げすぎたりすると、再度やり直しになるため、ここもゆっくり丁寧に行わなければなりません。
テンパリングが完了したら、シリコン型に流し込みます。この時、型の縁にもチョコを塗ります。そうする事で、この後中に入れるもの(ガルニチュール、ガルニ)が綺麗に包まれるため、表面の仕上がりが断然良くなります。
③ガルニチュール(ガルニ)の作成
一旦チョコを冷やしてる間に中に入れる『ガルニ(具材)』を作ります。ゴルゴンゾーラチーズとトリュフオイルを3:1の割合で混ぜ、チーズのダマを無くしたら冷蔵庫で少し冷やします。トリュフオイルとチーズが固まったら、先程冷やしておいた型に半分ほど入れ、上からチョコを流し込み、再度冷蔵庫で冷やします。
あとは固まるのを待てば、チョコレート本体は完成となります。最後にトッピングとしてのせるアブサンを使った『オレンジ・コンフィチュール』を作っていきます。
④オレンジ・コンフィチュールの作成
本来ならば、フレッシュのオレンジに大量に穴を開けて水に漬け、苦味を何日も抜いて初めてスタートになるのですが、当店にはドライオレンジを作れるディハイドレーター(食品乾燥機)がある為、こちらを活用して、コンフィチュールを作成していきます。文明の利器って素晴らしいですね。
水5に対してグラニュー糖を4の割合で入れ、ドライオレンジを数枚入れます。ここでも温度管理が大切です。110℃を超えるとどんどん茶色くなり、俗に言う、苦味のあるカラメルソースになってしまいます。プリンなどを作る場合はいいのですが、今回はビターチョコレート由来の苦味をいかすため、シロップは甘く仕上げます。
シロップは火から外しても温度がグングン上がり続けるため、常に離れずに、途中で少量の水を指し温度変化を止める必要があります。当店の構造上、キッチンがかなり暑くなりますが、ここは耐えるのみです。
温度を保ったまま煮詰まったら味をみます。フレッシュのオレンジを使用してる場合はここで苦味が出る可能性があり、その時は勿体ないですがシロップを全て捨ててやり直しとなります。今回はドライオレンジを使っているため、苦味の少ないキレイなオレンジシロップが完成しました。
⑤仕上げ
ここまでは仕込み段階です。次はこのコンフィチュールを細かく刻みます。元々ドライから使っているのでシロップを吸って柔らかくなっていますが、少々口に残りやすくなっているため、口当たりを良くするためです。
コンフィチュールが刻めたら、アブサンと合わせてコンフィチュールに香りを付けます。これをすると口に入れた時にアブサンのアルコール感はそこまで感じずに、スッキリとした香りとその後からオレンジの優しい甘さが口の中で広がります。
完成したチョコレートに粉糖をかけて、コンフィチュールをのせて完成です。夜空の皿に粉糖で天の川を描くイメージで盛り付けました。
塩味とチョコレートの甘み、そしてアブサンとトリュフオイルの芳醇な香りが鼻から抜けていきます。最後に口に残るのは、固形物であるオレンジ・コンフィチュール。シロップを吸ってじんわりと口の中に優しい甘さと程よい苦味が残ります。
僕の個人的に料理も、製菓も心掛けていることがあり、「口に物が入る時、何から味がするのか、何から香るのか」を大切にしています。今回の場合だと、最初に舌につくのはビターチョコレート、そして次に香るのはアブサンの香りです。そこでチョコを噛むと、アブサンの香りの中にゴルゴンゾーラとトリュフオイル特有の風味が混ざり合い、互いを引き立て合います。
アブサン・ショコラの制作工程はこれで以上になります!
専門的な話も多くなってはしまいましたが、それだけ拘って作らせて頂きました。アブサンがお好きな方はもちろん、初めて来店されるお客様も、是非アブサンと合わせてご賞味くださいませ。